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水戸地方裁判所 昭和28年(行)16号 判決

原告 豊崎薫

被告 茨城県知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告その余を被告の各負担とする。

事実

原告訴訟復代理人は、「被告が別紙目録記載の宅地につき茨城第八一一号買収令書をもつて買収期日を昭和二三年一二月二日と定めてなした買収処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、別紙物件目録記載の畑(以下本件畑という)は、もと訴外豊崎松之輔の所有であつたところ、原告は昭和一八年二月二五日右訴外人から贈与を受け、昭和二一年一月三〇日その所有権取得登記を経由した。

二、ところが、旧堅倉村農地委員会(現美野里町農業委員会)は、昭和二三年一〇月二日、前記畑の一部(以下本件土地という)につきこれを現況宅地と認定し所有者を訴外豊崎松之輔として自作農創設特別措置法第一五条に基づき買収計画を樹立し、所定の公告縦覧手続をなした。

そこで右訴外人は、同村農地委員会に対し右計画に異議を申立てたが却下されたので、更に旧茨城県農地委員会に訴願したがこれも棄却された。

その後旧茨城県農地委員会は右計画に承認を与えたので、被告知事は買収期日を昭和二三年一二月二日とする茨城第八一一号買収令書を発行し、昭和二四年中訴外人にこれを交付して本件土地を買収した。

三、しかしながら、右買収処分は次のとおり重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。

(一)  本件買収は、本件畑二反五畝二二歩のうち現況が宅地となつている地域三〇〇坪につきなしたもので、いわゆる一部買収であるところ、買収対象地たる本件土地の地域が本件畑二反五畝二二歩のうちどの部分に該当するものか買収令書上特定されていない。すなわち買収処分の内容が明確を欠くから無効である。

(二)  本件畑は、前記の如く原告の所有に属するところ、旧堅倉村農地委員会は右事実を十分知悉しながら訴外豊崎松之輔が世帯主である関係上敢て右訴外人を買収の相手方として前記買収計画を樹立したものであるが、右の如き場合においては買収計画は無効であり、これに基づく買収処分もまた無効である。

四、よつて被告知事が本件土地につき茨城第八一一号買収令書をもつて買収期日を昭和二三年一二月二日と定めてなした買収処分が無効であることの確認を求める。

と述べ、被告の主張に対し、

訴外豊崎松之輔が被告知事からその主張の頃その主張の如き本件買収令書が無効である旨の通知を受けたことは認める。しかし被告が自ら本件買収処分を取消したのであればともかく、単に同訴外人に対し本件買収令書が無効である旨を通知しただけでは、原告は本件につき訴の利益を失うものではない。

と述べた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、

一、請求原因一、及び二、の各事実は認める。

二、同上三、の(一)のうち、本件買収が本件畑二反五畝二二歩のうちの一部買収であること、及び本件買収処分の対象たる地域が買収令書上不特定であることは認める。従つてこの点において本件買収処分が無効であることは認める。

三、同上三、の(二)のうち、本件畑が原告の所有であることは認めるが、旧堅倉村農地委員会はこれを訴外豊崎松之輔の所有と誤認して買収計画を樹立したものに過ぎないから、この点に関しては本件買収処分は当然に無効ではない。

四、しかしながら、被告知事は、本訴係属後に至つて本件買収処分に原告主張の如き買収地域不明確の瑕疵が存することが判明したので、昭和三〇年四月二五日本件買収令書が無効である旨を宣言し、同日付書面をもつてその旨被買収者たる訴外豊崎松之輔に対し通知済みである。従つて原告は本件につき訴の利益を欠くに至つたものである。

と述べた。

(証拠省略)

理由

請求原因一、及び二、の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

ところで、原告は本件買収は本件畑二反五畝二二歩のうち現況が宅地となつている地域三〇〇坪につきなされた、いわゆる一部買収であるが買収対象地たる本件土地が本件畑二反五畝二二歩のうちどの部分に該当するか、買収令書上特定せず処分の内容不明確の瑕疵があると主張するところ、本件買収処分がいわゆる一部買収であつて買収対象地の区域不明確の瑕疵が存する事実は被告も自認するところであるから本件買収処分はこの点において無効である。

しかしながら被告知事が本訴係属後に至つて右の瑕疵があることを認め、昭和三〇年四月二五日本件買収令書が無効である旨宣言するとともに被買収者たる訴外豊崎松之輔に対しその旨通知したことは当事者間に争いがないし、又被告が本訴において当初本件買収処分が無効であるとの原告の主張を争つていたが、後に本件買収処分は前記の瑕疵があるため無効であることを認めるに至つたものであることは本件記録上明らかなところであつて、既に被告が前認定のように被買収者たる訴外豊崎松之輔に対し本件買収処分が無効であることを自認し、その旨通知し、訴訟上においても原告に対し無効であることを認める以上、原告はもはや本件買収処分が無効であることの確認を求める訴の利益を欠くものといわざるをえない。

よつて本件訴を却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九〇条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 和田邦康 諸富吉嗣 浅田潤一)

物件目録

茨城県東茨城郡美野里町大字堅倉字笄崎一、五九一番

一、畑 二反五畝二二歩 のうち

三〇〇坪(現況宅地部分)

以上

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